四 神 〜 しじん 〜
「“ 追放 ”なんて…
そんな…酷すぎます…」

 何とか処分を軽減させようと、王妃は跪いて必死に懇願した。


“ 追放 ”は“ 死刑 ”の次に重い“ 大罪 ”だった
 だが、酸いも甘いも噛み分けた今年四十九歳になる王は、頑としてその訴えに耳を貸さなかった。
“ 名君 ”と名高い六代前の 黄竜 は、信義を損ねる事を何より嫌う…。


「…いいのです…継母上」

 意志の強そうな瞳に純粋さを残し、真っ直ぐに見上げたその顔は、今は亡き前王妃に生き写し…。

文武に優れ、後一年で退位する父の跡継ぎとして… 二十四歳になったばかりの長男“ 勾麟 ”(こうりん)は皆から大きく期待されていた

 それなのに…。


 西方領王妃“ 呼小妃 ”(こしょうき)との間に明るみになった不義…
最も重臣をおき、最大の敬意を払わなくてはいけない 腹心 に対する息子の裏切りは黄竜をかつてないほど激怒させた。


「“ 白虎 ”(びゃっこ)様は不問に付す…と言って下さったのに…」


「これはお前の出る幕ではない!! これ以上…」


「継母上!!」


 怒りの矛先が王妃へ向かわないよう、勾麟は慌てて間に割って入る…。


「まだ“ 麟史 ”(りんし)の体調が思わしくないとか…
どうか、行ってあげて下さい。」


 実の息子のように接し、護ろうとしてくれる優しい継母・・・

感謝を込めて頭を下げる…
 しかし、その目に映ったのは、自分の右手の甲に入れられた“ 焼印 ”…。

それは“ 罪人 ”の証…。

 …勾麟は、急に胸が締め付けられるような感覚に陥り、慌て自分の左胸に手を当てる…。


 …彼女を愛したのが“ 罪 ”だと言うのならば… 私はそれを決して恥じたりはしない…

 …“ 罪 ”を受ける事で彼女が許されるのなら…私が喜んで全てを受け入れよう…


そう…覚悟は出来ていた。 “ 出会って ”しまったその時から…。 


< 13 / 46 >

この作品をシェア

pagetop