四 神 〜 しじん 〜
「静かにせよ……」
皆がその出来事にざわめく中、王は冷静さを取り戻すため、近くのテーブルに置いてあった“桂花酒”を一気に飲み干すと、低い声音で伝令役であろう男に尋ねた。
「…どのような夢見だ…」
「はっ!!」
伝令の男は軽く敬礼をし、届けられた夢見の紙を震える指で開く・・・。
カサカサと紙の擦れる音が静まり返った室内にやけに大きく響き渡った・・・。
そして擦れる声に鞭打つように一音一音はっきりと読み上げる。
「一つの時代が終りを告げる時、その身に鳳凰を現す者生まれる…」
「かせ!!!」
男の手から引ったくるように王は紙を奪い取ると、まるで間違い探しでもしているかのように、食い入るように読み返した。
「…鳳凰だと…?」
驚くほど微かに呟かれた畏怖の言葉は、同時にあがった産声にかき消される事になる・・・。
皆の視線が一斉に、半日以上開かれる事のなかった扉へと向けられた!!
「王・・・
おめでとうございます」
藤色の衣を纏った医師らしき姿の男が、ようやく開いた扉の中から出てくると目の前にいた朱の王に頭を下げた。
「御子は元気に…。
ただいま隣室にて、紅峯水の産湯に浸かっております。」
朱の王の治めるこの土地は暑いながらも豊かな水に恵まれており、特に火山地帯から湧き出る幾多の温泉は大きな資源で、その中でも領土内に一際高くそびえる“紅峯山”(こうほうざん)の温泉水は、聖なる水として生まれたばかりの子供の産湯として使われていた。
「…ご苦労であった…」
長丁場の出産に疲れ果てた様子の医師にねぎらいの言葉を掛けるが、王の方がより疲れてみえる…。
無意識のうちに握り締めていた 神薙 の夢見の紙を落としている事にも気付かないほどに…。
無事の出産への安堵か、それとも…。