四 神 〜 しじん 〜
三 章 即位
「“ 私生児 ”のご到着か・・・。」
見渡しの良い小高い丘の上から、遥か彼方に見える黄色い旗を眺める。
ここは南方領。
だが、数分行けば西方領に入る、言わば境界線の付近に居た。
黄色の旗は“ 黄竜 ”の証…。
今日は、黄竜 の即位式であった。
「やはり、白虎王に敬意を払って西方領から入るみたいですね…
なかなか“ 義 ”をわきまえたお方だ…」
風にたなびく旗を眺めながら“ 橙 ”の衣 を纏った若者は、葦毛の馬に跨ったまま、主人である“ 朱の王”に言う。
…そんな彼の言葉を聞いていないのか、朱の王 の視線は 黄竜 より“ 白虎城 ”に向いている。
「 白虎の兄達とは“異父兄弟”と言う訳か…
今、どんな顔をしているのか見てみたい物だな」
「…朱雀(すざく)様…」
若者は、呆れた様子で一つため息を付く。
年若き南方王は、明らかに“ この状況 ”を楽しんでいるようだ。
「…まさか、見に行くつもりなのでは…」
“見回り”なのにも関わらず、朱の王 の手にする“ 神器 ”が気になる。
あと“小袋”も・・・。
「私は“ 奴ら ”になど興味はない」
言い捨てられた言葉に、若者は心から安堵する。
「では、城に戻って…」
「だが・・・」
彼の言葉が途中で遮られた。
朱雀の顔が心なしか、ほころんでいるようにも見える。
「我が民達が今年は“ 朱苓茶 ”がよい出来だと言っていた。
ならば、白虎 に“ 分けて ”やるのもいいだろう“ 所用 ”ついでにな」
なるほど…“そのため”の小袋なのか…
なかなか用意周到でいらっしゃる・・・。
…などと、感心している場合ではない。
若者は、慌てて気を引き締め直した。
朱苓茶 (しゅれいちゃ)とは、南方領特産品である
“ 朱苓花 ”(しゅれいか)と言う赤い花の蕾を加工し乾燥させて作るお茶で、湯を注ぐと、花が開いて甘く、芳しい香りが広がる。
南方領民が好んでよく飲むお茶だ。