軌跡
 駅から歩いて五分、築何十年になるだろう平屋が、祖母の住む家だ。
 玄関の呼び鈴を挨拶代わりに押し、返事を待たずにその引き戸を開けた。
「婆ちゃん、久しぶり」
 居間で駅伝を見ていた祖母は、どこか一回り小さくなったように見えた。もちろん、それは睦也が成長したという意味ではない。成長期なんて、とっくの昔に終わっている。
「いらっしゃい。あけましておめでとう。そちらは?」
 ボーッと突っ立ったままの優。その腕を肘で軽く小突くと、慌てて挨拶した。
「は、はじめまして。秋元、優と、申します」
 テレビから流れる、順天堂と法政の一位争いを熱狂するアナウンサーの声に、搔消されそうな程か細い声だった。
「ごめんね婆ちゃん。なんか緊張してるみたいなんだ。それより飯もらえない?」
 睦也はその場を必死になって取り繕った。今日は疲れる一日になりそうだ。
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