軌跡
 テーブルの上には、次から次へと料理が運ばれてきた。お節料理の詰まった重箱に、マグロの刺身に筑前に、そしてきんぴらごぼうなどだ。
「お節料理なんて何年振りだ? 何か久々に正月、って感じがするよ」
 隣で優も頷いていた。
 この子にとってのお節料理は、一体、何年ぶりなのだろう? 
 睦也はそんなことを考えながら、なおも場を盛り上げようと、一人喋り続けた。
「このきんぴらごぼう、マジで絶品なんだから」
「ほとんど残りもので悪いんだけど、きんぴらだけは、今日作ったんだよ」
 祖母の作るきんぴらごぼうは、睦也の大好物だった。太く切られたきんぴらとにんじんの食感に、ごま油が聞いた味付けは、昔のままだった。
「婆ちゃん、ビールある?」
 アルコールの力を借りでもしないと、テンションを保てなかった。
「確か昨日の残りが冷蔵庫にあったと思うんだけど」
 立ち上がろうとする祖母を制し、睦也は立ち上がった。
「お前も、何か飲むか?」
「私は、大丈夫。昼間からまた飲むの?」
 昨日も昼間から飲んでいた。そのことを言っているのだろう。だが、今日と昨日ではその意味が違うのだ。
「正月だぞ、昼間から飲んで当たり前だろ。昔の楽しみがお年玉なら、今の楽しみは、昼間から堂々と酒を飲めることだからな」
 それは昨日も聞いた、優は、睦也を睨みながら呟いた。そんな光景を見た祖母は、嬉しそうに笑っていた。
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