軌跡
「そうかい、どおりでね。今はやってないんかい?」
冷静に考えれば当然、このような質問が帰ってくることは予測出来た。だがそのときの睦也は、そこまで頭が回らなかった。自ら首を絞めるような返答に、辟易した。
「今はやってません」
睦也の困惑を知ってか知らずか、優は自ら答えた。その断固とした口調に、睦也の胸は痛んだ。
今は女優を目指してます、少し前までの優の口からであれば、その言葉が発せられていたのだ。
「もったいないねぇ……」
「婆ちゃんこそ、昔は、ものすごく美人だったじゃんか」
祖母の次の言葉を恐れた睦也は、慌てて口を開いた。なぜ辞めてしまったのか、それを聞かれることを恐れ。
「一度見してくれた写真があったじゃん? こいつにも見せてあげてよ」
「あの写真かい。はて、どこに仕舞ったかね」
身近な戸棚などを探すが、なかなか見付からない。先ずは話題を変えられたことに、睦也はそっと胸を撫で下ろした。
「じいちゃんが冥土の土産に持って行っちゃった? それとも、あの世で浮気しないように、婆ちゃんが棺桶に入れた?」
「あのじいさんは、そんなことしなくてももてはしないよ」
小さな笑いが起き、徐々に場の雰囲気は和んでいった。
冷静に考えれば当然、このような質問が帰ってくることは予測出来た。だがそのときの睦也は、そこまで頭が回らなかった。自ら首を絞めるような返答に、辟易した。
「今はやってません」
睦也の困惑を知ってか知らずか、優は自ら答えた。その断固とした口調に、睦也の胸は痛んだ。
今は女優を目指してます、少し前までの優の口からであれば、その言葉が発せられていたのだ。
「もったいないねぇ……」
「婆ちゃんこそ、昔は、ものすごく美人だったじゃんか」
祖母の次の言葉を恐れた睦也は、慌てて口を開いた。なぜ辞めてしまったのか、それを聞かれることを恐れ。
「一度見してくれた写真があったじゃん? こいつにも見せてあげてよ」
「あの写真かい。はて、どこに仕舞ったかね」
身近な戸棚などを探すが、なかなか見付からない。先ずは話題を変えられたことに、睦也はそっと胸を撫で下ろした。
「じいちゃんが冥土の土産に持って行っちゃった? それとも、あの世で浮気しないように、婆ちゃんが棺桶に入れた?」
「あのじいさんは、そんなことしなくてももてはしないよ」
小さな笑いが起き、徐々に場の雰囲気は和んでいった。