軌跡
「じゃ、婆ちゃん、おれらはそろそろ帰るよ」
 まだ時計の針は四時を過ぎた頃だったが、既に日は傾いていた。これから三時間近くかけて帰ることを考えると、そろそろ出なければならない。
「……そうかい。また近い内に、二人で顔を見せに来ておくれよ。何のお構いも出来ないけどね」
 その表情に、祖父を亡くした祖母の孤独を、初めて垣間見た気がした。二人が帰ってしまえば、祖母はこの家で一人になってしまう。一人では、広過ぎるこの家に。昨日今日とたくさんの来客があり、その賑やか差の、騒々し差の名残が残る、この家に一人……。
「また、お盆にでも顔を見せに来るよ」
 その孤独を感じたからこそ、出来るだけの笑顔でそう告げた。
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