軌跡
「今日、僕が君たちのライブを見に来た理由は、分かるよね? デモを聞いて、興味を持ったから」
 支度を整えライブハウスを出ると、さっそく事務所に連れて行かれるでもなく、だからといって、高級なレストランが予約されているでもなく、目に付いた居酒屋に入っただけだった。
「だからって、すぐにうちからデビュー……、という訳にはいかない。君たちはいいものを持っている。それは今日のライブを見て確信した。変にビジュアルを派手にするでもなく、楽曲で勝負しようとしているのが伝わってきた。やっぱり、長く、そして幅広い年代に愛されるバンドは、そういうバンドだからね。僕はそういうバンドが好きなんだ。楽曲は確か、二人がそれぞれ作ってるんだよね? 二つの個性がぶつかり合うでもなく、だからといって同調するでもなく、一つのバンドで二種類の楽曲を楽しめる、これもなかなか面白い。でも、足りないものもまだまだある」
 ヒロポンはジョッキを傾けつつ、ときに熱く、ときに淡々と語った。Locusのメンバーは、その一言ひとことに一喜一憂しながら、耳に全神経を集中させていた。
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