軌跡

「睦也、またトイレか？　十分に一回は行ってるだろ」
　太輝の指摘に、賢介が付け足した。
「高校の文化祭のときも、こいつはトイレに引きこもってたよ」
「うるせぇ、小心者だと思って笑うなら笑え」
　四人の間に、やっと小さな笑いが起きた。
　本番が近づくにつれ、緊張も和らいできた。いや、開き直ったといった方が正しいかもしれない。
「オシッ、泣いても笑っても結果は引繰り返らない、この一発にかけるぞ！」
　賢介の激を受け、ステージに向かった。いつもどおりにやればいい、そう言い聞かせながら。
　暗闇のステージの上に立った四人。これからの三十分間で、運命は大きく分かれる。栄光を掴むか、それを求める日々に逆戻りするか……。いずれにせよ、この場から逃げることは出来ない。今まで積み上げてきた全てを、信じるしかない。
　四人の気持ちは一つになった。目と目で語り合い、それを確認した。
　秀樹の力強いカウントと共に、運命の三十分間が幕を開いた。睦也は全ての思いを込め、音を紡いでいった。