軌跡
「睦也さん、こっちこっち」
 まだどことなく虚ろな状態でジョッキを傾けていると、どこからか声が聞こえた。
「奈々ちゃん、来てくれたんだ」
「当たり前じゃないですか。ライブすごくよかったです」
 その真っ直ぐな瞳を見ていると、ライブは成功したんだ、という実感が徐々に湧いてきた。
「ありがとう。新曲はどうだった?」
「……新曲も、よかったです」
 無邪気な笑顔に、一筋の亀裂が走った。あまり奈々の好みではなかったのだろう。
「この後打ち上げなんだけど、よかったら参加しない? そっちの子は、友達?」
 大学で同じゼミの友人とのことだ。二人は二言、三言交わしたのち、すんなりと了承した。
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