軌跡
「睦也か、久しぶりだな。元気にしてるか?」
「何のようだよ。そんな白々しい挨拶は聞きたくねぇんだよ」
「すまない」
 ……あの男が謝るなんて。
 睦也は動揺を悟られぬよう、黙った。
「今回のことは母さんから聞いただろ。ドジをしてしまったよ」
「だから何だって言うんだよ」
 重い沈黙。病室なのに携帯を使ってもいいのか? 平静を取り戻すため、そんなことを考えていた。
「頼む、工場を継いでくれないか。今更こんなことを頼むのは、筋違いだと分かっている。お前が私たち二人を、どれだけ恨んでいるかも」
「分かってんなら答えも分かってんだろ!」
「頼む。お前しか……」
 ふざけんな! 振り絞るような声を、集められるだけの憎悪を込めて弾き返した。
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