軌跡
 翌日からも母親のメールは続いた。だがそこには二度と、戻ってくるように、継いでくれ、などという内容は記されていなかった。ただ淡々と、治療経過が記されているだけで。
 幸いにも切断は免れ、手術とリハビリにより、八十パーセントの機能は取り戻せるとのことだ。そこに長い年月がかかったとしても。
 それを知った睦也は、どこか安堵していた。後継者問題から解放されたからではない。その不思議な感覚に、睦也自身、戸惑いを隠せなかった。だからといって、そのメールに返事を返すことはなかった。自ら他人という烙印を押したのであれば、メールアドレスを変えるか、母親からのメールを拒否するべきだった。返信はしない、それだけに留めたのは、睦也の中にまだ、割り切れない何かが存在していたからかもしれない。
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