軌跡
「この後、たまには二人で一杯どうだ?」
 きっと、調子の上がらない睦也を気にして誘ってくれたのだろう。思い切り飲みたい気分だった。だがそれは、誰かとではない、一人きりでだ。
「何か予定でもあるのか?」
 躊躇している睦也を急かすように、賢介は続けた。
「予定は、特にないけど……」
「何だ、金の心配か? 今月は何日かバイト休んだから、来月の給料が心配なんだろ? それだったら……」
「そうじゃない。それに、奢ってもらう程困っちゃいない」
「奢るなんて言ってないだろ? 貸してやる、って言おうとしたんだよ」
 賢介が楽しそうに笑っている。断る理由をまんまと断ち切られてしまった。
「あいつらは?」
「二人はこの後、予定があるんだってさ」
 睦也は腑に落ちなかったが、渋々頷いた。
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