軌跡
 五日間バイトに行き、二日間の休みのある生活。バイトのある日も、家に帰ってくればやることはない。今までならば、帰って来てからもベースの練習やらなにやらに追われ、アッと言う間に時間は過ぎていった。休日もスタジオ練習やライブに明け暮れ、時間を持て余すようなことはなかった。たまにはゆっくり休みたいと思ったこともあるが、いざ実際にその時間を与えられると、有り余る時間に翻弄されるばかりだった。
 休養に入って一週間が過ぎるが、賢介と飲んだ夜に見た光は、以前と同じ場所で霞むだけで、近づきも遠ざかりもしなかった。
 だからと言って、時間が流れるのをただ眺めていた訳ではない。記憶の扉を開き、その一つひとつと向き合っていった。その中で唯一変わったことと言えば、それらを思い出しても、もう涙を流すことはなくなったことだ。それだけでも進歩なのかもしれない。だが、睦也は焦っていた。みんなに迷惑をかけてまで貰った貴重な時間を、こんなふうに浪費していいのかを。きっと賢介なら、時間がかかることだから焦るな、そう言ってくれるだろうが……。
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