軌跡
 それから一時間近く店内を物色したが、ファーストインプレッションに敵う商品は現れなかった。
「お帰りなさい。どうでしたか、気になる商品はありましたか?」
 その顔には営業スマイルではなく、うちの商品が一番でしょ? という余裕の笑みが浮かんでいた。その笑顔が癪だったが、ここは意地を張る場面ではない、そう自分に言い聞かせた。
「いいえ。最初に見せてもらったネックレス、もう一度見せてもらえませんか」
 結局その商品をそのまま包んでもらい、店を後にした。出口まで送ってくれた店員は、一度微笑むと店内に戻って行った。その笑顔に、どこか親しみを覚え始めていた。
 時間はまだ二時を少し回ったばかりだった。タワレコにでも寄っていくか、と考えていると、空から一粒の雫が落ちてきた。
 クソッ、天気予報め、外れやがった。
内心で舌打ちし、本降りになる前に駅へと急いだ。
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