軌跡
「彼女が一緒に行きたいって言うんだ」
 電話越しにでも驚いているのが分かった。
「ごめん、急でびっくりした? 大丈夫、心臓止まってない?」
「死んだじいさんが川の向こうから手招きしてきたよ。睦也が彼女をかい。結婚するんかい?」
 今度は睦也が面食らう番だった。
「……そういう訳じゃないんだけど」
 いつか……、その呟きは、素早く掻き消された。
「だったら泊めることは出来ないよ」
 そこら辺は昔かたぎなのか、妙にしっかりしていた。
「分かってるよ。日帰りのつもりだからさ」
 その後、大体の時間などを伝え電話を切った。
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