軌跡
 シャンパンも七面鳥もない、ましてやモミの木のツリーなどがあるわけがない、八つにカットされたショートケーキだけのクリスマスが過ぎ、どちらが勝っても負けてもいい紅白を眺め、新たな一年を迎えた。
 新年二日目の朝、二人は北千住の駅にいた。ここから東武伊勢崎線に乗り込み、祖母の住む伊勢崎市に向かうのだ。途中の太田駅までは特急を使い一時間余り、そこから鈍行に乗り換えて三十分で目的地に着く。東武線は私鉄のため、特急なども格安で乗れるのだ。
 ゆったりとしたシートにもたれかかり、流れ行く景色を見るともなく眺めていると、それは東京の高層マンションから埼玉の一戸建てに変わり、三十分もしない内に田畑のそれに変わった。
 伊勢崎駅に着いたのは十二時を少し回った頃だった。電車から降りると、東京よりも二度か三度冷たい空気が全身を包んだ。外気は差程変わらないものの、四方を山に囲まれたこの地特有の吹き下ろし、群馬名物空っ風が、その寒さを二重にも三重にも感じさせた。十八年間感じてきたこの風は、ビルの隙間風になれた体に、どこか懐かしさを彷彿させた。
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