さまざまな絆
安藤を刺したあと貴尋は自殺した。
そんな事件になったからにはもちろん教師なんてやってはいられなくなり、転職をした。あれでも生徒達が好きだったし、天職だと思っていたから悔しかった。
貴尋が死んでしまってからにはもう分からないが、最後に弟を打たれて怒り狂ったのは、由文を少しでも大切に思う気持ちがあったからなのだろうか。
それとも、自分だけが傷付けるのを認めた所有物とでも思っていたからか。
どちらにしろ最後まで兄を憎まなかった由文にとっては辛いだろう。
あれから由文の自傷癖は更に酷くなった。
過呼吸になり苦し紛れに首をひっかき血まみれになったり、無意識に体を傷付けてしまう爪を疎ましく思い爪を剥がしてしまったり、一生消えない傷だらけの体は痛々しいことこの上ない。
何度か死にかけたこともある。それでも由文は生きようと努力をした。

仕事を終えて帰る頃にはもう深夜だ。
教師の時と比べ物にならないくらい毎日疲れるが、今の仕事にもやりがいを感じてきたのであまり苦ではない。
コンビニでビールとつまみと煙草を買った。
すっかり煙草の量が増えてしまった。死ぬ時は十中八九肺疾患だと思う。
アパートの階段を登りながら寒さに震えた。早いところ暖まりたい。
急かすようにブザーを連続で二度押した。中から足音が聞こえる。
「夜中にうるさい。非常識」
ひょっこりと由文が顔を出した。
由文は癖毛なのに髪を洗ってもドライヤーを使わない癖があるので、髪がぴょんぴょんと跳ねている。
直してやろうと押さえ付けても直らなかった。
「いきなりなにさ」
「ドライヤーくらい使えよ。それより土産買ってきてやったから入れて。外寒いんだよ」
コンビニの袋を由文の目の高さまで持ち上げて見せた。
由文の好きな銘柄のビールに、つまみが入っている。
「それに、どうせ俺が先客じゃないんだからいいじゃないか」
玄関に入ると由文の靴の横に並んだ一回り大きな靴を見つけて言った。
「おい、玄関寒いから早く戻って来い」
十六歳の頃より更に低くなった靴の持ち主の声。
「一志ぃ、ビールとせんせ来たよ」
「ビールが先かよ」
いたずらっぽく笑う由文の背中を小突きながら暖かい部屋の中に入って行った。
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