瞳
西本は片腕で頬杖をつき伏せ目がちに話す。俺は西本の長い睫毛で出来た影を眺めながら相槌を打った。話す内容はどうあれ、妙な心地よさがあった。
西本の感情は日常の暴力に麻痺してしまったのだろう。精神にまで傷が付いて病まなくするための自己防衛なのだろうか。
「でもね、一人でいるとさ、今まで消える暇もないくらいに痣がしょっちゅう出来てたのに、増えないままでだんだん薄くなって、消えてくの」
「当たり前じゃないか」
こんなに暴力とは縁遠そうなあどけない少年に痣。痛々しく思ったが、それを止めなかったのは紛れもなく自分なのだ。
なぜ高校生の俺は今のような気持ちになれなかったのか、悔しくて自然に眉間の皺が深くなるのを感じた。
「うん、当たり前だよね。でもしっくりこないって言うか、落ち着かなくて変な気持ちだった。俺って変だなって思って、だんだん不安になるの。だって殴られなくて済むようになったのに、なんでそれに違和感を感じてるんだろうって。殴られて喜ぶ変態になったみたいで、自分が気持ち悪い。どうして、っていろいろ考えてたら眠れなくなった。しょうがないから薬飲んで寝てるけど、薬なんかに頼らないといけないって思うと情けないくて、悲しくなった」
おそらく平穏な環境に初めて身を置き、自分の置かれていた異常な環境や精神状態に気付いたのだろう。
西本は激しい頭痛に耐えてるように頭を抱えてうなだれた。実際に痛いのだろうか。
「西本……俺は、あの時…………」
「……あの時、なんで貴尋を止めてくれなかった? 殴られる前に。耳がおかしくなる前に。あの時、どんな顔して俺を見てるのかと思って先生を見たんだ。そうしたら先生、眼をそらした。でもねそんなのずっと前のことだし、忘れてたよ」
言葉を詰まらせた俺の代わりに、西本は顔を上げて続けた。
「でも、貴尋と離れてからよく夢に見るんだ。眠れなくて困ってるのに、いざ寝ちゃえばあんな夢見ちゃう」
情けなさそうに笑って、苦しそうに顔を歪める。俺が無視した結果の痛々しい笑顔。心臓を鷲掴みされたように胸が痛んだ。
西本の感情は日常の暴力に麻痺してしまったのだろう。精神にまで傷が付いて病まなくするための自己防衛なのだろうか。
「でもね、一人でいるとさ、今まで消える暇もないくらいに痣がしょっちゅう出来てたのに、増えないままでだんだん薄くなって、消えてくの」
「当たり前じゃないか」
こんなに暴力とは縁遠そうなあどけない少年に痣。痛々しく思ったが、それを止めなかったのは紛れもなく自分なのだ。
なぜ高校生の俺は今のような気持ちになれなかったのか、悔しくて自然に眉間の皺が深くなるのを感じた。
「うん、当たり前だよね。でもしっくりこないって言うか、落ち着かなくて変な気持ちだった。俺って変だなって思って、だんだん不安になるの。だって殴られなくて済むようになったのに、なんでそれに違和感を感じてるんだろうって。殴られて喜ぶ変態になったみたいで、自分が気持ち悪い。どうして、っていろいろ考えてたら眠れなくなった。しょうがないから薬飲んで寝てるけど、薬なんかに頼らないといけないって思うと情けないくて、悲しくなった」
おそらく平穏な環境に初めて身を置き、自分の置かれていた異常な環境や精神状態に気付いたのだろう。
西本は激しい頭痛に耐えてるように頭を抱えてうなだれた。実際に痛いのだろうか。
「西本……俺は、あの時…………」
「……あの時、なんで貴尋を止めてくれなかった? 殴られる前に。耳がおかしくなる前に。あの時、どんな顔して俺を見てるのかと思って先生を見たんだ。そうしたら先生、眼をそらした。でもねそんなのずっと前のことだし、忘れてたよ」
言葉を詰まらせた俺の代わりに、西本は顔を上げて続けた。
「でも、貴尋と離れてからよく夢に見るんだ。眠れなくて困ってるのに、いざ寝ちゃえばあんな夢見ちゃう」
情けなさそうに笑って、苦しそうに顔を歪める。俺が無視した結果の痛々しい笑顔。心臓を鷲掴みされたように胸が痛んだ。