「助けられなくて悪かった。いや、助けられたんだ。助けようと思えば。最低だ。これじゃ暴力振るうのと変わらない。謝っても謝りきれる問題じゃない。許してもらおうとも思わない。でも、すまない」
俺の表情を伺って顔を覗き込むなんの表情のない顔。昔はこんな表情しか見ていなかったせいか、さっきよりも一層昔の面影が濃く感じられる。
うっすらと開かれた唇から何を発するのか、釘付けになった。
「ねえ、償って」
救いを求めるように差し出された手を握る。小さくて冷たい。
「ああ。なんだってする」
「本当? ありがとう。じゃあね、あのね」
心底嬉しそうな笑顔に俺まで嬉しくなった。
「死んでほしいの。本当に悪いと思うなら死んでみせて」
死の意味を知らない幼い子供が興味だけでそれをねだるかのように、悪意なんて微塵も感じられない。
俺の返答を問うために小さく首を傾げた仕草がただ単純に可愛いらしいと感じるくらい。
「どうしたの。冗談じゃないんだよ」
簡単にうなずかないのを不服としてすねるように唇を尖らせる。
人の死を願うのになんの罪悪感も持ち合わせていない西本が恐ろしくなった。それを悟られないように出来るだけ自然に、握っていた手を離した。
「……西本、それは無理だよ。本当に悪いと思う。でもそんなに易々と死ねるわけないだろう」
「なんで? 本当に悪いと思うなら死ねるよね。なんだってするんでしょ。お願い、死んでよ」
「俺は生きてやれることをやって、償いたい」
「要らないよ、そんなの全然必要ないから。先生の意思なんてどうでもいいよ。図々しい。……俺は先生に死んでもらう以外してほしいことなんて無いもの。それ以外何も望まないから、だから生きて償いなんて無理」
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