海の思い出


あの時の子が
優かもしれない。

そしてあのバッチを
見たら思い出すかもしれない。

そしたらあたしのことも
思い出すかもしれない。

今までの生活に
戻るかもしれない…


なんてちっぽけな
可能性を信じて
あたしは病院へ向かった。
信じるしか無かった。
ただただ
信じるしか出来なかった…


「優…?
今日も来たよ。
これ…。」

そう言って優にバッチを
見せたんだ。


海の子が優?
そんな奇跡。
ある訳ない…


だけどあたしは見た。

バッチを見たとき
優の目が変わったこと…


「友里音!」

優は大声でそう言った。

思い出したんだ…


「…優?
思い出したの?」

「思い出したって?
それより俺どうしたの?」


あたしは泣いて
言葉が出なかった。

「友里音?
何で泣いてんの?
ほらほら。泣くな。
こっちおいで?」

そう言うと優は
あたしを抱き締めてくれた。


久しぶり…

あたしは優が事故にあってから
一ヶ月くらい
一緒に居たけど
名前を呼んでくれたのも
何もかもが懐かし過ぎて
涙が止まらない。


「優。優。優。」

あたしは何度も
優の名前を呼んだ。
それに答えるように
優も何度もあたしの
名前を呼んでくれた。

「友里音。友里音。」

何度も。何度も…




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