サクラノコエ
和樹の家につくと美優の話よりも先に、先ほど起きたおかしな出来事を和樹に話した。
「スゲーじゃん! ファンレター!? さすが悠人」
和樹は物珍しげに封筒を見つめている。
和樹はモテる割に、興味がある女以外の好意には全く無頓着。実際は自分の方がモテているクセに、俺の方がモテると昔から思い込んでいるようだ。
女にどうやったらモテるかと考えてばかりいる俺みたいな奴は、女の好意的な態度に敏感だ。けれども、元々顔がいいやつってのは、案外女の視線に鈍感なものらしい。
見ず知らずの女に「ファン」とか言われて手紙をもらうなんて、初めてのことで、正直少し嬉しかったりもするけれど……
「つーか、マジ怪しくね? あまりに突然すぎるだろ! 『いつも見てます』とか言って、店で頻繁に見たことねぇし」
「おいおい! ファンの心を疑っちゃ~いけないなぁ。悠人くん、素直になろうよ」
和樹はニヤニヤ笑いながら、完全に俺の置かれたおかしな状況を楽しんでいる。