あなた
「和樹兄ちゃん、嘘ついたでしょう。
仕事、休みじゃなかったでしょう。
携帯、なかったら、困るでしょう。
私なんか、一時間だって、手放せないよ。
それに、彼女に、携帯の中身、見られて大丈夫なの?」

「そんな事、どうだっていいんだ。
この時から、ユキが、俺のすべてになったんだ。

携帯を返してもらった後、二人で近くの喫茶店に入った。
ユキは、自分の事は、何も話そうとしなかった。
ただ、俺のバカ話を、聞いてもらっていたんだ。
ユキは、本当に楽しそうにしてくれるんだ。
本当に嬉しそうにしてくれるんだ。
時々、俺の顔をじっと見つめて、そして、思い出し笑いをするんだ。
俺、幸せだったんだ。

それからも、ユキと会うようになった。
ユキの透き通るような白さは、きれいだけれど、何か異常さを感じさせたんだ。
俺は、その気持ちを払拭したくて、いろんなデートに誘った。
ユキの気持ちも考えないで。」

「和樹兄ちゃん、『ふっしょく』って何?」

「振り払う事だよ。

だけど、デートは、全部、断られた。
ただ、いつもの喫茶店で、俺のバカ話を聞いてもらっていたんだ。
俺の誘いを断り続けるのが、心苦しかったんだと思う。
ユキは、話してくれたんだ。
自分の病気の事、病気と共に歩んで来た人生の事、そして、避けられない死について。
俺は、『俺と付き合って下さい。』とお願いした。

『嬉しい。気持ちは、嬉しいよ。
でも、私と付き合っても、あなたを苦しませるだけです。
付き合えません。』

ユキが同じクラスにいたら、会社の同僚だったら、ユキは、モテモテだよ。
俺なんか、手の届かない高嶺の花だよ。
そんな人が、俺を苦しませるから付き合えないと言ってるんだ。
神様を、ぶん殴りたくなっんだ。
俺は、アッタマに来たんだ。
だから、ユキを、脅迫する事にしたんだ。」

「えっ? 何? 何で?」
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