あなた
あなた
「お母さん、私が死んだ時、和樹さんに、電話をかけて下さい。
そして、こう言って下さい。

『娘が、今、息を引き取りました。
田中さんには、本当に辛い思いをさせました。私が、口を挟めば、変える事が出来ました。
でも、私の家族にとっても、田中さん自身にとっても、これで良かったんだと思っています。
娘が、自分が死んだ時、田中さんに、この言葉を伝えてほしいと言っていました。
それを、今から言います。

あなたに出会えて、幸せでした。
愛しています。』

そして、私が死んだ後、お父さんに、真実を話して下さい。」

「どういう事ですか?」

「昨日、病院を抜け出した時、メッセージを残しました。」

「はい。読みました。
『和樹さんが、私が死ぬ前に、デートをしたいと言いました。
私は、その願いを叶えるつもりです。
朝までには、戻ります。
心配しないで下さい。』と書いてありました。」

「あれは、全部、嘘です。」

「あのメッセージを読んだお父さんは、ものすごく怒りました。
あなたを病室に戻した後、田中さんを、殺すつもりで殴りました。」

「分かっていました。
お母さんが、止めてくれる事も、分かっていました。
和樹さんは、私が、会いに来ないで下さいと言っても、聞き入れてくれる人ではありません。
私と和樹さんの間に、お父さんの怒りが、必要だったんです。」

「何故ですか?」

「和樹さんが、私の後を追って、自殺するのを止めさせる為です。」

「私は、あなたが、誰かと電話で話しているのを、見ました。
あなたが、あんなに楽しそうに笑っている姿を、初めて見ました。
それが、田中さんのおかげだと知りました。
私には、それで十分だったんです。
だから、今まで、あなたに、田中さんについて、何も聞きませんでした。

あなたの田中さんに対する気持ちを、話して下さい。」
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