あなた
私が、もう一度、会いたいという気持ちを伝えると、和樹さんは、携帯を返してもらう事なんか、どうでもよくなっていた。
仕事は、休みだと嘘をついて、『俺と会って下さい。お願いします。』と言ってきた。
私達は、もう一度、会う事になった。
一度だけでなく、何度も。
駅前の喫茶店が、私に幸せを与えてくれる空間になった。

私って、感情を表に出さないタイプでしょ。
でも、和樹さんの前だと、素直になれた。

和樹さんは、私の病気の事を知った後では、私に気を使って、話してくれなかった事を、たくさん話してくれた。
和樹さんは、思い出で、溢れていた。
私は、思い出が、少なかった。
和樹さんの話を聞いてると、和樹さんの思い出を、共有することが出来た。

プチ感動シリーズ、はじめて物語シリーズ、好きだったなあ。

和樹さんって、私に、他の女性に振られた話を、平気で、するんだ。
和樹さんが、初めて飛行機に乗った時、隣の席の女性の横顔に、一目惚れしたんだって。
今でも、目を閉じると、その女性の横顔が、写真のように、浮かび上がって来るんだって。
私程の美人を目の前にして、平気でそんな事、言うんだ。
失礼しちゃうよね。
その人が、どれ程の美人だっていう話だよね。
飛行機が動き出すと、和樹さん、怖くてプルプル震え出したんだって。
隣の女性の『大丈夫ですか?』に対して、和樹さん、『怖くて、怖くて、震えが止まりません。手を握ってもらえませんか?』って言ったんだよ。
その人、相当、いい人だよ。
握ってくれたんだって。
和樹さん、その後すぐに、告白したんだ。
振られるに決まってるでしょ。
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