あなた
「田中さんの事を、どんなに愛していようとも、たくさんの思い出を共有していようとも、私には、出来なかった。
あなただから、出来たんです。
あなたは、感情を表に出さないタイプです。
田中さんは、表に出すタイプです。
その点では、二人は、違います。
でも、二人とも、同じ優しさのかたまりなんです。
あなたが、これで自殺しないと考えているなら、田中さんは、絶対に、自殺なんかしません。」

「はい。和樹さんは、この世界に必要な人なんです。
和樹さんだけじゃない、自殺しようとする人は、優しい人なんです。
他人を傷付けるより、自分を傷付ける事を選ぶ人なんです。
毎年、3万もの優しさが、失われています。
それだけの優しさが、失われなかったら、優しさの連鎖を生みます。
その人の優しさが、その人自身に跳ね返る日が、いつか来ます。
優しさが、この日本を救ってくれます。
いつか、世界を救ってくれます。
その事が、その人の生きる意義にもなります。
みんな、死なないで下さい。」

「あなたの優しさも、田中さんを通して、世界に伝わるといいですね。」

「はい。

お父さんとお母さんには、まだまだ働いてもらわなくてはなりません。
和樹さんの気持ちが、ぶれない為にも、私が苦しんで死んで行く姿を、見せる訳にはいきません。
ごめんね。嫌な役、押し付けちゃって。」

「そんな事ないですよ。
私だって、あなたの願いを叶える事が、一番の幸せなんですから。
でも、お父さんは、真実を知った時、田中さんを殴った事を、すごく後悔しますね。」

「はい。謝りに行くと思います。
でも、絶対に、止めて下さい。
和樹さんは、他人の苦しみを、自分の苦しみにする人です。
最初は後悔しても、時間が、お父さんに、二人がお互いに愛し合っていて幸せだったと、気付かせてくれます。」

「そうですね。」
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