あなた

「階段を上ると、彼女は、『ありがとうございました。』と言った。

『お住まいは、すぐ近くなんですか？』

『歩いて、15分くらいです。』

『家の近くまで、荷物持たせて下さい。
お願いします。』

『はい。』

何か気の利いた話をしなきゃと思ったんだけど、ドキドキして、言葉が出てこないんだ。
彼女と、全然、話せなかったんだ。
しばらくすると、彼女は、『私の家、もうすぐです。』と言った。

『顔色も良くなったみたいですし、知らない男に、家の場所、知られたくないと思うんで、荷物、ここに置かせてもらいます。
すみません。』
俺は、逃げるようにして、その場を去った。
『何、かっこつけてんだよ。
このままで、いいのかよ。
二度と、会えないかもしれないんだぞ。』と、心の声は、叫んでいた。

『俺って、情けないなあ。』と思って、ただ、ぼ〜と歩いていた。





『あ〜！携帯、彼女に預けたまんまだ。
どうしよう。』