散らないサクラ
俺はまだ叫んだり、泣いたりしている輩たちを眺め、そして深々と頭を下げた。
一瞬にして静まるガレージ。
隣にいる歩もハッと息を飲んだ。
「いままで、ありがとう」
頭を下げたままで続ける。
「それと、一個だけ俺から頼みがある」
輩たちの息を飲む音を聞きながら、俺は顔を上げた。
“血塗りの獅子”なんて異名が欲しかったわけじゃねえ。
総長の座が欲しかったわけじゃねえ。
俺が、欲しかったのは……。
「コスモスの名前を俺にくれ」
「名前?」
歩が何を言っているのか分からないといった風に俺を見た。
「ああ。コスモス……、秋の桜。俺の桜なんだとよ。佐倉が言ってた」
――――秋の桜、そう書いて秋桜(コスモス)って読むんだよ。
俺の桜。
その言葉が俺を満たしてくれたのを今でも鮮明に思い出せる。