散らないサクラ
ガチャガチャ、ザワザワ、……なんて雑音は聞こえない。
バー、Agehaはチームにいた頃に行ったバーとは雰囲気が違った(もう過去形になるのは変な気分だが)。
なんつーか、金持ちのオーラってのか、セレブってのか知らねえけど、ああ、“大人の場所”。
そう、音楽一つ、人間一人とっても、雰囲気が違う。
俺は慣れない場所に眉を寄せながら辺りを見回した。
「リョウの店久しぶりだなぁ」
佐倉が懐かしい声を出す。
紫色の淡いライトが室内を照らし、窓の外からは夜景が広がる。
俺は佐倉の背中を追いかけながら、そんな世界を楽しんだ。
そしてバーカウンターに近づくと、俺らに気付いたのか、黒を基調にベストとネクタイをしたリョウが手を振った(バーの制服だろうか)。
「ようこそ、Agehaに」
営業スマイルと思われる笑みに手を挙げて答える。
バーカウンターの高く細長い椅子に腰をかけ、笑いかけるリョウにいつもと違う、仕事の顔を見た。