散らないサクラ
佐倉はリョウと軽く会話すると、“いつもの”と言って笑った。
「ん。秋はどうすっかな……」
「リョウさんの好きなモンでいい」
「俺の好きなねえ……、おし。わかった、待ってろ」
そう言ってシェーカーに液体を次々と流し込んで、振り始めた(氷なんかも入ってた)。
そう言えばカクテルを作っている人間をこう間近で見たのは初めてかもしんねえ。
カクテルを作っている時のリョウの顔は、すごく楽しそうだった。
たぶん、この仕事に誇りと楽しさを持ってるんだろう。
「今は大人しい雰囲気だけど、時間帯によって変わるんだよリョウの店」
「あ?」
「ディスコみたいに踊りだしたり、ピアノの生演奏でバーと言うよりレストラン風になったり、学生が集まるうるさいバーにもなったりする」
「へえ」
「ま、この時間帯が一番客入りがいいから、この時間が長いんだけど」
佐倉が窓の外を眺めて話している間に、カクテルが完成したようだ。
すーっと目の前に二つのグラスが現れた。
「お待たせ致しました。此方がセブンズ・ヘブン、そして此方がアジアン・ウェイ」
薄く濁った透明な液体の中に緑色の丸い球体が入ったグラスを佐倉に。
そして空の色より淡く、瑠璃色より薄く澄んだ青い液体の入ったグラスを俺に。
「これ飲むの久しぶり! ……奢りでしょう?」
そう言って餓鬼みたいな顔でリョウの顔をみた佐倉はセブンズ・ヘブンと呼ばれたカクテルに口を付けた。