散らないサクラ
たった一人、女がたった一人立っていた。
しかも周りにはピクリとも動かない、コスモスの輩たち。
俺は呆気にとられ、まるで倒れた輩たちのようにピクリとも動けずにいた。
それは後ろから追いついた歩たちも同じのようだった。
「ん? お、金髪にガラの悪い目、しかも一番最初にその部屋から出てきたって事は……、アンタだね」
女は俺たちに気づくと、否、正確には俺に気づくとニコリ、と笑みを浮かべた。
工場の前には桜の木が植わっていて、大きく開いた扉の口から花びらを吸って部屋に入れる。
「獅堂秋羽、アンタを迎えにきたよ」
風が巻き上げる花びらは、宙に舞い桜吹雪となって女の周りを取り囲む。
そんな神秘的な光景の中、女は俺に手を伸ばして拳を広げた。
―――その時の俺は、コスモスの総長としてではなく、一人の人間としてその情景が素直に綺麗だと感じてしまった。