散らないサクラ


バーには言った事はあったが、酒に拘らなかったし飲めればいいと思ってたから、こんな色だとか原料はなんだとか、気にしたことはなかった。

だから、出された酒をまじまじと見つめ、はたして俺はこんなに綺麗な色の酒を今まで飲んだ事があっただろうかと考えた。



……自分でも分かってる、最近の俺の脳みそは思考回路がめちゃくちゃだ(そんな感覚も悪くないと思ってたりもする)。



「どうした? 好きなカクテルじゃなかったか?」



不思議そうな、それに似た不安そうな声が降って来た。



「いや、ちげえ。……澄んだ色してんな、って思ってただけだ」

「お、秋も思う? 俺もパルフェ・タムールを使うカクテルの色って結構好きなんだ」

「ぱるふぇ、たむーる?」



日本語で発音すると、隣で聞いていた佐倉に爆笑された(イラっとしたが見て見ぬふりをした)。



「フランスを起源とするリキュールの一つだ。柑橘系果実をベースに作られててバラ、アーモンド、バニラなんかで香り付けされてる。青色だとコイツが一番俺は好きかな」



そう言って話すリョウの目は輝いてて、やっぱりこの仕事が好きなんだと思わせた。

そしてその思いが少しだけ羨ましくて、俺が自分の心臓が軋んだ音を聞かないふりをし続けた。



暫くの間、リョウのカクテルの原料の話や、作り方、シェーカーの振り方などを聞いてた。

俺の世界は物凄く狭い事を思い知らされる。





……俺は無知だ。




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