散らないサクラ
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隣に座ってた佐倉は知り合いを見つけ、席を立ったまま戻って来ず、その代わりその席に座った女からは経済の話を聞いた。
リョウとは違うバーテンダーからはここらへんのお勧めのデートスポットだとか、家具が安く買える店だとか。
二人の女に携帯番号を聞かれたが、罵声を浴びせて帰らせた(それを見てリョウが笑ってた)。
なんだか今日一日で自分の知らない世界をすげえ知れた。
そして俺は井の中の蛙だって事を知った。
俺はすげえ小せぇ男だった。
「例えば、埃や水蒸気の集まりである雨でもアジアの貧しい国は列記とした飲み水にもなるんだよ。何日も雨が降らない事を想定しての設備も彼らは考えてる。日本は少し先進国と言う名前に頼り過ぎて、己から何かをするという心を忘れているんじゃないかな」
数十分前に隣に座った男は世界中を回るジャーナリストらしく、色んな国の話を聞いた。
学校の授業だったら退屈ですぐ居眠りをこくか、さぼって保健室や屋上に逃げていた俺が、何故か興味を持って聞いていた。
心が頭が色んな単語を吸収して、体の一部にしようとしている感覚が妙に楽しく、もっと聞きたいと促す。
「アンタはそんな人たちを助けてぇと思わねえのか?」
「思うさ! でも、それはその国の秩序を乱してしまう事になるからね。無闇に手を差し出してしまってはいけないんだよ。それが国境なき医師団とかなら訳ないよ? でも、ただのジャーナリストが手を貸したところで、その後の国に責任なんか持てないんだ」
なるほど、と思わされる。
手を出さないのも優しさの一つ、行動一つ一つに責任が付きまとう。
……責任、俺はそんな物を背負って生きてきた事なんてないんだろう。