散らないサクラ
そう思うと酷く自分自身ちっぽけでどうしようもない生き物のように感じた。
こんな俺が佐倉を守る?
馬鹿馬鹿しくて自嘲すら出てこねえ。
そう考えて、目の前がフェードアウトして行く瞬間にグラスの割れる音と、小さな悲鳴が聞こえた。
その声に反射的に体が反応し、声がした方向に瞳を光らせる。
人の話し声がシン、と静まりかえり、洒落た音楽だけが流れる。
薄暗い部屋の中、妙な緊張感だけが漂い、そして聞きなれた低い声が俺の耳に届いた。
「ははァ、獅子! みーっけ!」
語尾に音符でも付きそうなトーンに俺はゆっくりと席を立った。
「てめえ、番犬。何の用だ」
俺の瞳に映った人物。
……ケルベロスのトップ、番犬だ。
俺は後ろを振り返り、バーカウンターの中で何事もなくグラスを磨いているリョウに声をかける。
「悪い、俺の連れ。外行ってくる」
「ああ。気をつけてな」
そう言って手を挙げたリョウを目尻に、俺は番犬を連れて外を出た。
遠目に佐倉が此方を見ていたけど、どんな顔をしていたかまでは分からねえ。
外に出て、ビル街の細い路地裏に回り、俺と番犬は顔を見合わせた。