散らないサクラ
何度も戦ってきた相手だからなのか、相手のちょっとした感情の変化には嫌でも気づく。
こいつは顔は笑顔だが、いつも以上に不機嫌だ。
「なんのつもりだ」
「ごめんね? グラス割ったのはワザとじゃないんだよ。言い寄って来た女の子がウザくてさぁ、ごめんね?」
「そうじゃねえ、なんのつもりでAgehaに来たかって聞いてんだ」
こいつはいつもそうだ、本題を分かっているのに敢えて知らないふりをする。
まるでおちょくる様に、馬鹿にするように。
俺の二回目の問いに、番犬の表情が変わる。
馬鹿にした笑いから、口の端を釣り上げ、獲物を捕える時の様な顔で笑う。
「なんのつもりって? それはこっちの台詞だよね」
「あ?」
鋭く光る眼球が俺を捕えた。
俺もその眼球を睨み返す。
「コスモスが解散したって?」
「…………」
「腰の抜けた猫に成り下がってさ、どういうつもり? 俺との勝負まだついてないでしょ?」
こいつの不機嫌な理由が見えた。
コスモスの解散が気に食わねえのか、まあ、勝負を付けないまま終わらせたんだから当たり前だ。