散らないサクラ
だが、番犬は行動に出るどころか、怒気や覇気を納めると小さく笑い声を洩らした。
「はは……、あーあ。興醒め! ……楽しい時間邪魔してごめんね? 帰るわ」
そう言ってさらりと手を振ってあっさりと背を向けた番犬を、俺は少し拍子抜けした顔で見ていた。
だが、妙な胸騒ぎだけは取れず、バーに戻った後も蟠りは取れなかった。
* * * *
リョウの店ではたくさんの出会いをした。
一日にあんだけの人間と話した事は人生で初めてだ。
酒と雰囲気でちょっと脳みそがグラグラと揺れていたりするが、たぶん問題ねえ。
早朝5時、客入りも少なくなり、閉店時間も過ぎ、俺たちはリョウに礼を言って店を出た。
出来ればまた来たい。
常連の客とも話したいし、もっと俺自身を磨きたい。
まあ、気分だけだが、一回りぐらい知識を得て、なんだかすっきりした。
そんな俺を佐倉が誇らしげに見て笑ってた。
「さぁって! 酒もいい具合に抜けてきたし、帰るか」
愛車、赤いバイクに跨りながら佐倉が声を張る。
「調子扱いて捕まンなよ。検問とか面倒なんだからよ」
「あいあい、だいじょうブイ!」
と言ってブイサインした佐倉を見て不安に思うのは俺だけじゃねえ、と信じたい。
ま、酒に強いほうだって今日で分かったからたぶん大丈夫だろう(根拠はねえが、こいつならきり抜けそうな気がする)。
俺もバイクに跨り、エンジンをかけ、先に走り出した佐倉を追いかけ家路を辿った。