散らないサクラ
アクセルの音よりも俺の心臓の音が耳に届いて、俺をせかす。
早く、早くはやくハヤク!
佐倉が、あいつが……!
後ろから警察の忌々しいサイレンの音が聞こえたが、細い道を何回か曲がるとその音もすぐに止んだ。
息が、上手くできねえ。
ハヤク、アイツノモトニ。
見慣れた廃墟。
懐かしくもある廃墟。
だが俺はそんな感情を一切捨てて、バイクを投げ捨てると全力疾走でシャッターを潜り抜け中に入る。
ひび割れた窓から差し込む光がコントラストを作り出す。
その丁度光の集まる真ん中の場所。
――――――そこに椅子に縄で縛られ、ぐったりとする佐倉。
隣に勝ち誇ったように笑う番犬。
「いらっしゃァい、獅子」
「糞がァ!!」
噛みつこうと前に出ると、ぐったりとしてる佐倉に銀色の刃物を向けられる。
俺の行動はそれで止まる。
「はは! ホントにこの女が大事なんだね!」
「…………」
「あはァ! …………馬鹿じゃねえの?」
声のトーンが一気に地に落ちる。
地を這うようなその声は、番犬と今まで喧嘩してきて初めて聞いた声だった。
底知れないこいつの感情が、いま姿を現している。
そう思うと、佐倉を守ると言う意志と並行して、この剥き出しの感情とぶつかりてぇと思った。
まだ完全に俺は抜け切れてねえんだと、実感する。