散らないサクラ
ちらり、と佐倉に目を向ける。
胸元まであった髪の毛が、右側だけ鎖骨辺りまでばっさりと切られているのを俺の瞳が確認した。
心臓が一瞬激しく音を立てた。
こいつ、佐倉になにしやがった?
おれのだいじなおんなになにしやがった?
俺の瞳が佐倉を見ていると気付いたのだろう、番犬がニタリと厭らしい笑みを見せる。
「獅子ィ、悪いけど俺、不完全燃焼で終わりたくないから」
心の奥底で凶器を孕んだ俺の“血塗りの獅子”とやらが牙をむいた。
コイツヲコロシタイ。
今までとは比にならないくらいの努が俺を支配し、全身の流れる血が静かに引いていくのを感じた。
血を押し出すポンプである心臓は、今までに感じた事がねえくらい動きが緩い。
―――目の前にいるのは、俺の敵だ!
“血塗りの獅子”が牙を向き、俺はその感情に身を任せた。
飛ぶようにして数メートル離れた番犬に食らいつく。
目に映ったのは嬉しそうに笑う狂った番犬の顔。
番犬は佐倉に向けていた刃物を廃墟の奥に投げ捨てると、俺の動向に目を光らせた。
俺は走り出した速度を緩めることなく、目標に向かって拳を振り上げる。
それを容易く避け切ると、同じように拳を振る。
同じように俺はそれを避ける。