散らないサクラ
「女なんかに絆されたの、っ獅子? 上等じゃねえの、そんな腑抜けた感情、俺が取っ払ってあげるよ」
攻撃を交わし、交わされ。
だが、俺の心臓は焦った色を見せず、何故か冷静にその場を見ていた。
こいつを殺したいと思うのに、その激しい思いは内側だけに燃え、表に出ない。
そのお陰で俺は周りの状況を確実に把握し、些細な番犬の変化にさえ気付いた。
――――こいつの瞳が頼りなく揺れているのに、俺は気づいた。
いつものような自信や相手を打ち落としたいと言う感情は間違いなく本物。
それは揺るがねえ、こいつの瞳からも伝わってくる。
だが、そんな凶器を孕んだ番犬から垣間見える、どこか不安定な気持ち。
俺はユラリ、ユラリ、揺れながら番犬の動きを追う。
どれくらいイタチごっこを続けてんだろうか。
お互い息が上がり、腹の奥底で呼吸をしていた。
「は、はっ、……っ、は! やけに……、は、今日は仕掛けてこないね? はは、そんなに女が大事?」
「は、ひゅ、……はァ。 抜けせボケ。てめ、こそ……、何そんな揺れてんだよ」
もっと番犬らしく噛みついてこい、と付け加えると番犬は顔色を一瞬にして変え、強張った。
「な、に?」
「俺を、はっ、倒してぇって思ってる他に……っ、余計な事考えてんだろォ? 不安定な拳しやがって!」
挑発でもない、俺は事実を口から番犬に投げ捨てる。