散らないサクラ
だが事もあろうか、女は倒れている輩たちを踏まないように跨ぎながら此方に向かってこようとする。
俺はそこで我に返る。
奥歯を音がするまで噛み締めると、近づいてくる女に眼光を光らせる。
「おお、怖い目しないでよ」
怯む様子のない女。
一体何者か、それは倒れている輩を含め全員が思った疑問だろう。
喉もとから声を上げる。
「てめぇ、どこのだ? ケルベロスか? ……敵は腐るほどいる。どこの輩だ」
「んん? あたし、今年ここに赴任してきたばっかだから、そんな族の名前言われたって分かんないよ」
噛みついたつもりだった。
だが、女の歩みは止まらない。
「まあ、所属しているのは黒王(こくおう)学園、3の4の副担任ってとこか」
「……黒王学園」
そこで漸く女の歩みが止まる。
学園の名前を聞いて俺の張っていた精神が別の意味で緩んでいくのを感じた。