散らないサクラ


それがどうやらお気に召さなかったようだ、番犬の瞳の瞳孔がぎゅい、と開くと間髪入れず俺に拳を振り上げた。

予想外の行動にその拳の行き先を瞳が捉えきれず、重たい一発が俺の右頬にクリティカルヒットする。



「ガッァ……っ!」



ぐわんぐわん、脳天が揺れる。

星が舞うなんて言う表現があるらしいが、それなんかよりも酷ぇ世界が広がる。

俺は2、3歩後ろに下がると視界を整えるために、せわしなく瞳を動かした。

その瞳の端に、俺を見る番犬の顔が移る。


その顔は笑ってんだか、悲しんだか、よく分かンねえ顔で。


俺は一瞬それが番犬なのだろうかと、疑った。

あんな顔見た事がなかったからだ。



口の中が鉄くさい。

頬の内側がたぶん、ぱっくりやられてる。

俺はやっと焦点を合わせ、未だに変な顔をしてる番犬を見た。




「馬鹿いうなよ、獅子ィ。俺はてめえを落とす事しか考えてないんじゃ屑がよォ!」



俺は吼える番犬を捕え、口から血の塊を吐き出す。




「“血塗りの獅子”、異名の通り、俺を真っ赤にしてみせろよ?」




熱く、熱く。

俺の中の獣を確立させる。





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