散らないサクラ
純粋に喧嘩を楽しみたい、と言う本能が煮えたぎる。
食いちぎられる理性が悲鳴をあげ、俺を必死で食い止めようとするが。
――――俺は、こいつをコロス。
本能が刃を向いた。
佐倉を人質に取られ、コケにされ、それで黙っていられるほど悪いが大人じゃねえんだ。
視点を低く構え、ゆらりと左右に一度揺れ、その焦点が合った時。
俺はコンクリートを蹴りだし、目の前にいる番犬に飛びかかった。
瞳孔を開き、楽しそうに俺を見る番犬の顔。
先ほどと打って変わって、心から対戦を楽しむかのような笑み。
俺はその笑みを潰そうと、宙に上げた足を顔面を狙って投げる。
番犬はその衝撃を腕で受け止めると、そのまま反撃に入ろうと此方へ腕を伸ばした。
だが、それこそが俺の狙い。
ガードされていない顔面に、己の頭をぶつける。
――――ガゴッ!
番犬の拳が俺に当たる前に頭が顔の中心にぶつかる。
鈍い音を共に、番犬が後ろに倒れ込む。
鼻から大量に血を流しながら。
「ふ、がッ……、っ」
倒れ込んで鼻を押さえこんだ番犬が俺を睨みつける。
「……ハッ、お望み通り、染めヤラァ!」
倒れ込んだ番犬の上に乗りかかる。
右手を振りあげ、渾身の一撃を番犬の左頬にぶつける。
ゆっくりと相手をなぶる様に、一発一発を重くそして遅く。
番犬は目の前が回っているか焦点が合わないのか、瞳がせわしなく揺れる。