散らないサクラ


それと同時に俺の心臓が酷く熱く脈を打っているのに気がつく。

ドクリドクリ……、まるで今まで血を流してなかったんじゃねえかと思うくらい、心臓が熱く、血を送り出す音を伝える。




真っ赤に、こいつを。

コイツをマッカに。

――――チイロニソメアゲテ、ニドトオキアガレナイヨウニ。



食いちぎられた理性が悲鳴をあげ、本能は凶器の牙を向けたまま。

俺の理性なんてとっくに消え失せ、表に残るのは剥き出しの本能。

そう、“血塗りの獅子”と異名を付けられたあの頃の自分のように。

ひたすらに目の前にいるモノを壊すことだけを考える。

なんでこんなにも目の前にいる相手を憎いと思ってきたのか、それは昔の自分しか分かんねえ。

でも、俺はいまコイツを殺したいと思うのは、コイツが俺の大事なものを傷付けたからだ。

その思いが俺を激しく駆り立てて、突き動かす。



コイツハ、サクラヲキズツケタ。



その気違いじみた感情が、俺を、今を、動かす。




どれくらいの間、番犬の顔を殴り続けたのか分かんねえ。

喉元を片手で締め上げ、顔面だけを狙って殴り続け、真っ赤にそまる番犬の顔。

唇は切れ、きっと内側もばっくりと裂けているだろう。

頬は赤く腫れあがり、どこらかしこから血が流れ出す。


それでも俺の手は止まらない。


まるで、こいつの息の根を止めるかのように。

俺の意志なのか、それとも違うのか。

でも、俺はコイツを許しておけねえ。

たとえ跪いて泣き叫んだとしても、俺はコイツを許さねえ。



佐倉に手あげたコイツだけは、許さねえ。



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