散らないサクラ


どっと安心感が襲ってきたんだろう。

ぐったりとしている佐倉を見たとき、一瞬、俺の母親の姿と重なり、どうしても失う怖さと怒りがこみ上げてきた。

だからこうして佐倉が動いて口をきいているのを見るだけで、俺の体の力がふっと消えていく。



「……はは、なんて顔してんの?」



佐倉が小さく頬笑み、俺のほうへ歩み寄る。

ゆっくりと近づいてくる熱。

心臓がじゅっと熱くなって、俺は大きく呼吸を繰り返す。

膝立ちの俺の横に佐倉が並び、そして俺の金髪を梳く。

熱が、脳天から物凄いスピードで全身に伝わり、体が震え始める。



――――情けないほど、怖かった。



俺は両手を伸ばし、膝立ちのまま佐倉の腰を引き寄せ、強く抱きしめた。

両手が番犬の血で汚れてるし、顔だって血まみれなのに、俺はお構いなしに強く強く抱きしめた。

そして、佐倉はそれを受け止める。


受け止めて、くれる。



「……くら、……佐倉」



消え入りそうな声で、俺は呼ぶ。



「佐倉……、さくら」



体が震えて、息が出来ない。



ひゅ、と単発な音がしてあの時の感覚が広がる。



真っ赤な世界が広がる。

追いかけてくる赤にのまれないように、俺は必死で佐倉にしがみ付き、逃れようとする。




< 124 / 300 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop