散らないサクラ
来るな、クルナ。
俺を呼ぶな、俺は……、この赤に飲まれるわけにはいかない。
アカニノマレタクナイ(母さん、俺はまだ逝けない)。
オレハコノアカニノマレタクナイ(許して欲しい)。
ひゅ、ひゅ、と単発な音が更にスピードをあげる。
目の前が真っ赤に飲まれそうになる時、またしても聞こえて来たのは愛しい声。
「秋、秋。大丈夫だから、顔、上にあげて」
上に?
「そう、顔上げて」
無意識に顔を上げたのだろう、佐倉の顔が見える。
「いい子」
そしてその顔がゆっくりと近づいてきて、俺の視界は佐倉の顔で覆われた。
落ちて来たのは熱。
唇に落ちた、熱。
佐倉の唇の感触が、俺の唇を伝って全てに伝染させていく。
柔らかな温もり。
触れる程度のそれは何度も離れては近づき、角度を変えて何度も何度も、俺に落とされる。
そして俺はそれを何度も受け止めるだけ。
心地よい、熱。
次第に俺の呼吸はゆっくりと正常なものへと変化し、唇から熱が引いていく。
視界に映る、佐倉の顔。
「……ん、戻ったね」
ふわり、と柔らかな笑み。