散らないサクラ


俺の所為で、……俺たちの喧嘩の所為で佐倉を巻き込んだことは事実。

それが悔しくて、未熟で。

それ以上に、今佐倉が無事なのが嬉しくて。

もうどっちがどっちなのか分からなくなっていた時、うめき声に近いものが横から聞こえた。



「は、……はは……。わ、がん、な……。お、れには……、わがん、ない」



顔が真っ赤でどんな表情しているのか分からないが、悔しそうでも悲しそうでもなかった。

ただ少しだけすっきりとしていて、でも、まだ瞳が揺れていて。


てめえが今何を思ってんのか、俺にはさっぱり分かんねえ。


佐倉は俺の手を優しく剥がすと、番犬の横にしゃがんだ。



「あたしが首を突っ込んだ事だから、騒ぎにはさせない。でも、このままじゃあんた動けないだろうから、学校側には電話しとくぞ。……そんでもう、あたしの生徒に手を出すなよ、糞餓鬼」



凍りついたような声に、その場の空気が変わる。


ぞくり、と背筋を通る冷たいもの。


たぶん番犬も感じ取ったのだろう、表情が硬く強張ったのが分かる。

佐倉は番犬から目を逸らさないまま、ゆっくりと番犬に手を伸ばし、髪の毛をぐしゃりと撫でると、小さく笑った。



「……いつか分かる日がくるよ」



そう小さく呟いた佐倉に、さっきまでの殺気はなく。

ただ穏やかな表情だけがそこにあった。



番犬の目が、小さく揺れる。



俺はそんな佐倉と番犬の顔をただ呆然と眺め、そしてゆっくりと心臓が動くのを感じながら瞳を閉じた。




ただ、安心感を感じながら。



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