散らないサクラ
* * * *
痛む体を庇いながら家に戻ると(バイクは佐倉が運転し、俺は後ろに乗った)、俺はソファに盛大に倒れ込んだ。
どこもかしこも、痛ぇ。
そりゃそうだ、お互い本気のぶつかり合いだったんだ。
何度も喧嘩して、何度も殴り合って、何度も引き分けに終わってた番犬。
それが今日、俺の勝利にして幕を閉じた。
……今までの経験で分かる。
あいつはもう俺に喧嘩を売らない。
“負け”と言う二文字をあいつは受け止め、そして逃げない。
そう言う奴だと今まで戦ってきて分かる。
もう顔を合わせる事もなくなるだろう事を思うと、少し複雑な気持ちになり、俺は大きく深呼吸する。
そんな時、額に落ちた冷たい物。
「風呂、入ってきなよ」
濡れたタオルが額に乗せられていた。
不格好な佐倉の髪の毛を見ると、やはり番犬を恨みたくなるが、恨んだところで佐倉の髪の毛が返ってくるわけじゃねえし、もう、十分あいつに制裁もした。
俺は荒ぶりそうになる感情を押さえて佐倉を見る。
「…………悪かったな」
「ん?」
「髪……、そんなんにさせちまって」
罰悪そうに言うと、佐倉は首を振る。
「だから言っただろ? あたしが勝手に首を突っ込んだ結果だから気にする事ないって」
「…………ああ」
それでも、俺は自分の未熟さを恨み、怒りを覚えずにはいられない。
大事な女一人守れないで、男を語る資格もない。
悔しさが顔に滲み出ていたんだろう、佐倉が俺の頬に手を伸ばし、笑う。