散らないサクラ
マッカナチガオレヲノミコム。
サクラノチガオレヲノミコム。
チガ、オレヲオソッテクル。
ハッ、と目を覚ますと額からゆっくりと冷たい汗が伝う。
熱いからじゃない事は確かだ。
部屋の中は十分に涼しい温度を保っている。
熱いわけでもない、寒いわけでもない。
なのに、俺の体の震えは止まらない。
両手を見ても、赤色はないのに。
何も、ないのに。
俺はゆっくりと自分の両手を握りしめ、なんとか震えを押さえこむ。
ざけんな、情けねえ。
平常心すら保てずに、自分の事に精いっぱいな男が……、そりゃ大事な女一人守れるわけがねえ。
それを自嘲気味に笑い飛ばすことすらできねえ。
ただゆっくりと心臓が動いているのを感じて、自分が生きているのだと言う事を確認する事しか……、できない。
俺はソファから起き上がり、虚ろな瞳で一か所を見つめる。
目の先には佐倉の部屋。
おぼつかない足取りで、俺はそこを目指し、扉を開く。
ベッドの真ん中で寝息を立てる佐倉。
その佐倉の上に跨り、そして唇にキスを落とす。
柔らかい感触と共に熱を帯びるそこに、俺はもう一度同じ事を繰り返す。
「……ん、……? なに、秋」
虚ろげに瞳を開けた佐倉を、俺は見下ろす。