散らないサクラ
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「弥生、お前秋に許した?」
「ん? ……なに?」
バー、Agehaでいつものお気に入りカクテルを飲みながら、弥生は首をかしげる。
閉店近いためか、周りには数人のお客しかいない。
リョウはグラスを磨きながら鼻で笑う。
「セックス、許したんだろ?」
その言葉に弥生が納得したように頷く。
「ああ、許したも何も。あたし別に貞操観念低いし?」
「寝付けないから秋誘って酒飲もうとしたら、ソファにいねえからさ。……弥生のベッドスプリングうるせえし」
ニヤリ、と笑ったリョウに笑い返す弥生。
グラスに残ったカクテルを呷ると、弥生はゆっくりとバーテーブルに突っ伏した。
そんな弥生の髪の毛をリョウの片手がぐしゃりと掻く。
「全部とまではいかないけどさ、分かるんだ。秋の気持ち。……不安で不安で、逃げたくないのに逃げようとする自分に絶望として。解決策を探しても見つからなくて」
「……ああ」
「昔の自分にほんとそっくり」
昔を思い出し、二人は苦く笑う。