散らないサクラ



「“だけど、あいつは人の目を見て物を言える男だ。人の痛みをちゃんと知ってる男だ。だから、仲良くしてやってね”って」



じゅ、と広がるあの感覚。

暖かくて、母親の腕の中にいるみたいな、その温もり。

確かに俺はたくさん悪事をしてきた。

この両手を真っ赤に染め、何度も何度も人を真っ赤に染めてきた。

それは変えられない、逃れられない事実。



「先生の言う事と疑う訳じゃないけど……、でも自分の目で確かめてから判断しようと思ってたんだけど……」



優しく細められた瞳が、俺の瞳を見据えた。

その瞳はとても綺麗な色をしていた。



「確かに、真っすぐな目をしていると思うよ……、獅堂くん」



俺は女一人、どこからでも守れる男になりたいと思った。

佐倉から学んだ事の一つ。


……無知のままじゃ、大事な女一人守れない。


アイツみたいな人間になる為に、……俺は此処にいる。




原沢と、佐倉の言葉で、俺は全身に纏っていた棘を脱いだ。



――――俺が拒絶していれば、相手も拒絶する。



「名字は嫌いだ。名前でいい。……原沢」



そう言った後に笑った原沢の顔を見て、俺はどこか安心していた。









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